木曜日の夜。
会社の先輩が「Kippis君、僕の分も頼む」と千円札を差し出してきた。
「うひぃ、何か希望はありますか?」
「いや、君のセンスに任せるよ!」
決してパシリを命じられたのではない。先輩に確認せずとも翌日の用意だということがわかる。
我が社は小さなコミュニティーなので、バレンタインの義理チョコも一人一人に渡すのではなく、オフィスの中央にチョコの詰め合わせやらケーキが持ち寄られるという形で配られる。
そのお返しに、千円+αで二人分の感謝を込めた気の利いたお菓子を買ってこいというわけだ。14日は昼間に出社することができないため、たまたま近くを通りがかった私が代理に選ばれたのである。
私は私で、元よりお菓子を買ってくるつもりだった。
オフィスの中央にはバレンタインデーに限らず、出張のお土産や得意先からの差し入れが置かれていることがしょっちゅうなのだが、それらのお菓子を一番多く頂いてしまうのが私である。最年少で一番食欲旺盛というのもあるし、夜遅くまでいるので残ったお菓子が腐らないようにと言う名目で一気に食べてしまうこともしばしば。
ちなみにバレンタインの夜はケーキをたらふく頂いたため夕食抜きで済んでしまった。それはもう、ホワイトデーに何か用意しなければ文字通り義理が立たないというものだろう。
問題は、私にお菓子選びのセンスが無いことである。千円の援助があるとはいえ、諸先輩方ほどの経済力もない。むしろ先輩に「任せる」と言われた以上、(当初予定していた)近所の洋菓子屋で適当な詰め合わせを買うのも微妙だ。
まあ、センスがないならば得意技で勝負するしかない!
家に帰ってリサーチ開始。マシュマロやクッキーを軸に、人気の高い洋菓子屋をひたすら検索した。
商品の内容と評判に徹底的にこだわってようやく見つけた、東京都内の洋菓子屋。
自宅から約12km。ここを経由して出社すると、普段の5,6倍走ることになる。
望むところだ。センスが無くても足と気合いで真心を伝えてやる(義理だけど)。
どうにか早起きして、サイクリングヘルメットを締めながらいつもより1時間近く早めに玄関を出た。

…
初志貫徹。
Created by Wadachi
- 今回の走行距離:21km
- 主なルート:自宅→中野通り→エコール・クリオロ→山手通り→会社(マップでは始点と終点付近は表示せず)
どんどん強くなる雨。スリップしやすい地面とスピードを緩めない車。何で義理チョコのお返しに命をかけるような真似をしてるんだ? と聞いたら負けだ。
ずぶ濡れになって目的地「エコール・クリオロ」に到着。そこはフランス人パティシエが始めた超人気店。店の雰囲気に釣り合わないとしても、せめて入店を拒否されないようにと、扉の前で体を拭いて開店を待ったのであった。
長くなったので結末は日を改めて記します。
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