9月6日(木) 21時ごろ
電車で渋谷を目指す。
普段、この程度の距離に電車なんて使わないのだが、乗らないとどんな目に遭うのかは手に持った傘が物語っている。
半分以上の骨がひん曲がり、閉じた状態でもなんだかもっこりしている。開くと、中には交差している骨さえあるのだ…
21時15分ごろ
牛丼屋で夕食を済ませて、傘を開こうとした。
…開かなかった。
傘立てに強引にねじ込もうとしたのが災いしたか、ただでさえ曲がっていた骨は見るも無惨な状態に。思い切って下ろくろを上げたら、ものすごい音とともにすべての受け骨が折れた…
もはや、私が手に持っているのは単なるアルミとビニールの塊である。仕方ないので、石突きとハンドルを持って、顔の前でかざして走り出す。
最後は、それでも濡れるので全く使わなくなっていた。
(参照:傘各部位の名称)
21時25分
安いネットカフェを見つけて入店。
安いと言っても、12時間で2000円飛ぶのは、ここしばらく節約を心がけている私には痛い。あと、無惨な傘を見る店員の視線も痛い。
気がつけば、財布の中身が寒い。そして、全身ぐしょ濡れなので私も寒い。
24時ごろ
一応個室を借りているのだが、セキュリティーのかけらも存在しないので安心して眠れない。これ以上所持品を失ってたまるか。
PCゲームにも飽きたので、マンガ置き場を漁る。何故か「ジョジョの奇妙な冒険」を手に取る私。
ようやく精神的テンションが上がってきた。
9月7日(金) 3時ごろ
台風が上陸したらしい。晴れて外に出られるまでは長そうだ。だが、「ジョジョ」も長いぞ。
9号ーッ!
君がッ、去るまで、読むのをやめないッ!
7時ごろ
なんで「ジョジョ」55巻がねーんだよ、ナメやがってこのネカフェ、超イラつくぜェ~~~ッ!!
ギアッチョ戦の後半が読めねぇじゃあねーか!
どういう事だ!どういう事だよッ!クソッ!
全巻揃ってないって、どういう事だッ!ナメやがってクソッ!クソッ!
(このネカフェは、妙にバックナンバーの欠けているマンガが多かった。で、ジョジョも途中で切れてたので私もキレて本棚を殴り…)
7時20分ごろ
そして読みたいと思っても読めないので
―そのうちKippisは起きているのをやめた。
9時20分ごろ
目が覚めた。ちょうど入店後12時間経過。が、外では依然ざんざと降っているようなので、泣く泣く延長。
10時20分ごろ
ようやく雨が上がったのでネカフェをあとに。服もすっかりかわき、髪も整えたが、傘は決して直ってくれない。
暴風雨の中ならいいのだが、晴れている状態でこんな物体を持っていると、道行く人々の視線が痛い。
11時ごろ
会社に到着。
これは出勤ではない。ただ代休を会社で過ごしにきただけだ。
昨日と同じ服装にぼろぼろの傘を携えた私の姿は哀愁を感じさせるらしく、さまざまなアドバイスをいただいた。中には「どうしようもなかったら今晩はうちに泊まりに来てください」という親切な方も…
12時ごろ
改めて会社に鍵がないことを確認した後で、2度目の大家さん訪問。
まあ、当然出会えなかったが…
13時ごろ
とりあえず、現金が心許ない。なので銀行から引き落とさなければならないのだが、ここで効いてくるのが、2週間前に無効化手続きをしてしまったキャッシュカードが今日になるまで再発行されないという点だ。
銀行へ行く。そして予想どおりのオチが待っていた。
「お客様、お渡しに必要なのですが印鑑と通帳はお持ちですか?」
「両方とも家の中です…」
14時ごろ
大家さんに直接会えないなら、せめて電話しよう。と思ったが、104の番号案内には登録されていない…
不動産屋の連絡先も何も分からない。契約書は家の中だし!
で、行き着いた結論は大学の生協に連絡することだ。
今のアパートは、大学生協が新入生向けにやっている不動産紹介サービスで見つけた物件だ。もっとも、そのとき私は4年生で、合格発表を見た新入生が生協へやってくる前に一番よい物件を手に入れる、という狡いことをやったのだが…
「3年前の3月ということは今3年生でらっしゃいますね」という職員さんの言葉にちょっとだけ胸が痛む。直後、「3年前に入学だったら今4年生じゃん」と心の中でツッコミを入れた。
15時ごろ
不動産屋の連絡先を調べる生協からの連絡待ち。まあ、依頼内容に無茶があるので時間がかかるのはしかたあるまい…
会社内の私のデスクは、携帯の電波が届かないため、別の空き席で(そこでさえ受信状態が悪いので)アンテナを伸ばしてひたすら待機。皆様がかたかたと仕事をしている中で、雑談をするわけにもいかずに変なポーズで固まる私。眠すぎる。
15時半ごろ
結論。ダメだった。
生協→不動産会社まではたどりついた。しかし、この不動産会社と大家さんの間にもう1つ管理会社が絡んでいるらしく、不動産会社は私の名前と住所だけは把握していても、どの管理会社が管轄しているのかは分からないらしい。
16時ごろ
会社の方に鍵開けサービスを紹介していただく。最安でも7千円。もはや、こうするしかないのか…
開けるにしてもせめて建物の管轄者(大家さんか管理会社)には連絡しておきたかったし、ひょっとすると合い鍵ももらえたかもしれないが、背に腹は代えられない。
16時半ごろ
玄関の前で、意を決して鍵開け業者に電話。
「うーん、その形式だと多分7千円で済みますが、構造によっては1万超えますね」
万…
さらに、料金の後払いもできないとのこと。
思わず「もう少し考えさせてください」と言ってしまった。
19時ごろ
何度大家さんの家のインターホンを鳴らしたことか。
行くたびに不在で、公園のベンチや花壇の脇に座り込んで居眠りするのが続いた。
ほとんど浮浪者だが、道行く人々の視線にはもう慣れた。
…が、それも限界だ。既に両腕は10回以上蚊に刺され、歩き続けた足は棒のよう。日中かいた汗が気持ち悪いし、暗くなってきた今は寒さが心配だ。
意を決して鍵開け業者を呼んだ。
19時40分ごろ
鍵開け業者到着。
安く済むことを願ってたのだが…
「あー、これピッキング対策が施されてますね。…10,500円です」
1万円超えちゃったよorz
19時50分ごろ
業者さんがどんな方法で解錠したのかは敢えてここには書かない。「こりゃ、我が家が泥棒に狙われたら防ぎようがないな」と感じたことだけは述べておこう。
さて、当然ながら現金がないので、家の中にあった郵便貯金のキャッシュカードを持って近くのコンビニへ走った。
長いこと使ってなかったが、口座にかろうじて1万円残っていたのは奇跡としか言いようがない。
長かった放浪も、ついに終わった。
しかし、この瞬間からまったく正反対の忍耐が始まったのだ。
我が家唯一の合い鍵は、実家の親が持っている(余計な心配をされたくないので、鍵をなくしたことはこの時点まで連絡してなかった)。
親に連絡して、合い鍵を送ってもらうまでは、玄関から出るわけにはいかない。
台風一過で、空はキレイだったんだろうなあ。
本を入手してまで、良いサイクリングコースを決めてたんだけどなあ。
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